落ちた家内は、私に背を向けているから、顔の表情はわからない。急いでシャツとズボンに着替え、両脇に手を入れ、起こしにかかった。重くて、抱き上げられない。起きる気持がないのだ。
 二、三度こころみたあと、どうしたらよいか寝間着の裾の方をぼんやり見ていると、静かに流れ出、畳を這い、溜りを作った。
 呆然と見ていたが、これも50年、ひたすら私のため働いた結果だ。そう思うと、小水が清い小川のように映った。
(『一条の光・天井から降る哀しい音』耕治人)