意識の内容は、人がそれを経験する前に、すでに処理され、削減され、コンテクストの中に置かれている。意識的経験は深さを持っている。すでにコンテクストの中に置かれている、たくさんの情報が処理ずみだが、その情報が私たちに示されることはない。意識的自覚が起こる前に、膨大な量の感覚情報が捨てられる。そして、その捨てられた情報は示されない。だが、経験そのものは、この捨てられた情報に基づいている。
 私たちは感覚を経験するが、その感覚が解釈され、処理されたものだということは経験しない。物事を経験するときに、頭の中でなされている膨大な量の仕事は経験しない。私たちは感覚を、物の表層をじかに感知したものとして体験するが、ほんとうは感覚とは、体験された感覚データに深さを与える処理がなされた結果なのだ。意識は深さだが、表層として体験される。
(『ユーザーイリュージョン 意識という幻想トール・ノーレットランダーシュ:柴田裕之訳)

認知科学