「わかるかね? じっと坐っているというのは非常に雄弁な所作なのだ。どんな俳優でもそういうはずだ。わたしたちは、自分の性格に応じた坐り方をする。わたしたちは、長ながと体をのばして坐る、椅子にまたがる、ゴングを待っているボクサーのような格好で身を休める、そわそわと体を動かし、椅子の端に坐り、脚を組みかえる、辛抱を切らし、耐久力を失ってゆく。ゲルストマンは、そのようなことはいっさいしなかった。彼の姿勢は、まったく変わらなかった。筋ばった小さな体が突出した岩のようだった。筋一本動かさないで一日じゅうあのように坐っていることができたにちがいない」(『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイジョン・ル・カレ:菊池光訳)