本物の逆説の単純な例は、「嘘つきの逆説」である。エウブリデスという紀元前4世紀のギリシア哲学者が考案したこの逆説は、誤ってエピメニデスのものとされているが、エピメニデスは仮託された語り手にすぎない(プラトンの対話篇に出てくるソクラテスのようなものだ)。クレタのエピメニデスは、「クレタ人はみな嘘つきだ」と言ったとされる。これを完全な逆説に転換するために、少しずるをして、戯れに、嘘つきとは、言っていることがすべて本当ではない人のことだと定義しよう。するとエピメニデスは、要するに「私は今嘘をついている」、あるいは「この文は間違っている」と言っていることになる。(『パラドックス大全ウィリアム・ストーン:松浦俊介訳)