(※米・英・露と和親条約を結んだ日本の、国内における擾乱を予想しつつ)
「こういうときにわたしたちはどうしたらよいでしょう、教えていただきたいのです」
「学問に身を入れるのです」
「いえ、いつ擾乱(じょうらん)が起こるかもわからないこの時代を、見て見ぬ振りはできません」
「だから学問をするのです」
「は?」
「力をつけるのです。世の中はこれから大きく変わっていくでしょう、かならず福沢でなければならないということがある。そのときにすぐ役立つためには力をつけておかねばなりません。さらにいうなら、世の中を動かしていく福沢になってほしい。そのために力をつけなさい」
「はい」
「この塾は全精力を注ぎ込んで、一途に学問するところです。勉強は君がするのです」
(『洪庵塾の人々』池上義一)

福澤諭吉