これほど周囲に敏感になってことはこれまでになかった。戦争中、行動を起こす瞬間にこれに似た感情を経験したことはある。あらゆる動きがスムーズで正確になるのだ――走り、照準をつけるために身体を反転させ、そっと引金を引きしぼると、たしかな手ごたえが反動となって身体に伝わってくる。洗練された動きに生命がかけられていたのだ――そんなときのかれには肉体しかない。精神はどこかへ去っているのだ。その瞬間に存在しているのは、動きとまったく一致するかれの肉体だけなのだ。連合軍内にいた現地兵たちが、それは“ゼン”の境地だと教えてくれた。完全に停止した瞬間に到達する道で、長期にわたる困難な訓練と精神統一、そして固い決意でもってしなければ完成されないものなのだ。(『一人だけの軍隊 ランボーデイヴィッド・マレル:沢川進訳)