日時計は倒潰して、数知れぬ白い石のかけらが残った。鳥たちは、もはや岩と砂に塞がれた古代の空に埋もれて飛び、その歌声は跡絶えた。死んだ海の底を砂塵(さじん)が流れ、風蝕の昔語りを再演せよと風に命じられては、陸地にまでも押し寄せた。都市は深い眠りのなかに横たわり、沈黙の穀倉には時が貯えられ、池や泉には静けさと追憶のみがあった。
 火星は死んでいた。
(『とうに夜半を過ぎてレイ・ブラッドベリ:小笠原豊樹訳)