べつに、すべての軍服が、ファシズムに結びつくと思っているわけではない。
 しかし、あらゆる軍服の歴史を通じて、やはりナチス・ドイツの制服くらい、軍服というものの神髄にせまった傑作も珍しいようだ。あの不気味に硬質なシルエット。韻を踏んでいるような、死と威嚇のリフレイン。実戦用の機能を、いささかも損なうことなく、しかも完全に美学的要求を満足させている。
(『内なる辺境安部公房