二人は馬を繋(つな)いで歩きだした。松風が蕭々(しょうしょう)と鳴っていた。前も後も、右も左も、耳の届くかぎり松風の音だった。宗利は黙って歩いていった。石段を登って、高い山門をくぐると、寺の境内も松林であった。そして其処もまた潮騒(しおさい)のような松風の音で溢(あふ)れていた。(『松風の門山本周五郎