だが、今にして思えば三木のアクの強さは女に好かれる体(てい)のものではなかった。彼は醜男のゆえに若い時から失恋していたのではなく、ある女にはかならず振られる素質を持っていた人なのだ。これは大雑把(おおざっぱ)な言い方だが、異常に熾烈(しれつ)な性慾や不潔な行為を平気で人前で語るごとく、彼には微妙さが欠けて、奇怪さが目立つ男なのだ。彼は青年時代パスカルを研究していたが、その著作の中でもパスカルの妖怪性というか、人間化物論を引用しつつ、彼もまたこの論を深く広く展開している件(くだ)りにはなはだ興味を覚え私の脳裡にも忘れずに残っていたものだ。私はここに及んで彼自身妖怪性を顕著(けんちょ)に持っていることに、私ははたと思い当った。(「三木清における人間の研究」今日出海)『日本文学全集59 今東光 今日出海』今東光、今日出海

三木清