「お前はこうした冒険にはよほど疎いと見えるな。実は、あれらはいずれも巨人なのじゃ。だが、怖いなら、ここから離れておればよい。そして、拙者がった一騎で多勢の巨人どもを向こうにまわし、死闘を繰り広げるあいだ、お祈りでも唱えておるがよい。」
 こう言うが早いか、乗り馬ロシナンテに拍車を当てたドン・キホーテは、従士のサンチョがうしろから、旦那様が攻めようとなさっているのは、間違いなく風車であって巨人なんかじゃありませんよ、と注意する声に耳を貸そうとはしなかった。
(『ドン・キホーテセルバンテス:牛島信明訳)