ジャコメッリは西暦2000年に75歳で死んだ。デジタルカメラが登場し、モノクロームフィルムがカメラ屋の店頭からほとんど姿を消し、世界が色で溢れかえる時代までかれは生きたが、しかし最後まで色をつかうことはなかった。実験的に試みたことすらあったかどうか。かくも色の氾濫する時代にあって、かれは頑固なまでにモノクロームにこだわり、白と黒の世界に「時間と死」を閉じこめつづけ、そうすることで「時間と死」を想像し思弁する自由をたもちつづけた。「時間と死」はジャコメッリにより息づいたのである。(『私とマリオ・ジャコメッリ 〈生〉と〈死〉のあわいを見つめて』辺見庸)