「憎しみ」は心の核兵器である。爆発すれば社会秩序を吹き飛ばし、世界を戦争と集団殺戮(ジェノサイド)の渦(うず)に引き入れるだろう。「憎しみ」は、人と人との関係を粉々に打ちくだく。かつて愛しあった人びとが憎しみゆえにたがいに背を向け、傷つけあい、はては殺しあいさえする。憎悪の爆発は道徳と寛容の心を一掃して人を残虐な行為に駆りたて、集団と集団を争わせ、とどまるところを知らない戦いに巻きこむ。憎しみは職場にも毒をまき散らす。破壊的な力で無垢(むく)な子供の心をねじまげ、世代から世代へと受け継がれて増殖する。憎しみは健康を冒しもする。心臓を圧迫して血圧を上昇させ、免疫系を停止させ、脳に損傷をあたえる。自己嫌悪というかたちで忍び寄れば、人は自分の短所しか見えなくなり、人生のよろこびを奪われ、ついには鬱病(うつびょう)に陥ってみずから生命さえも絶ちかねない。(『人はなぜ憎むのか』ラッシュ・W・ドージアJr.:桃井緑美子訳)