名もない人々の歴史こそ、本当の歴史である。
 日本史の勉強をはじめたばかりの頃、私が先学の仕事から鮮烈に受け取ったメッセージはこのことだった。最近の歴史書がとかく大文字でばかり書かれるのを見るにつけ、私はいいものを先学から頂戴したと思っている。不透明なこんな時代には、身近なもの、小さなものから社会や歴史を考えることができる人が一人でも多くなってほしい。本書の執筆動機を心底に探せば、そういうところに行き着くような気がする。
(『戦国仏教 中世社会と日蓮宗』湯浅治久)