病院の1階のロビーにテレビが置いてあって、次女のダーナが、ラウンドが終わるたびに2階へあがってきて試合の様子を教えてくれた。そして11ラウンドが終わった頃、エディの意識が戻りはじめ、最終12ラウンドの頃にははっきりと戻っていた。井岡のKO勝ちを告げるダーナに、エディははっきりと、うん、うん、とうなずいたのだ。それに、なぜ、この日だったのだろう、井岡の試合が終わるまでは死ねないという執念が、この世の訣れの日をも動かしたのだろうか。(『遠いリング』後藤正治)