今日的な意味での民主主義の本家本元は、おそらく、アメリカ合衆国であろう。もちろん、ルソーが想定するような民主主義が、ついにアメリカにおいて実現したということではない。そうではなくて、この新興国家は、古代ギリシャにまでさかのぼる深い議論の歴史的な重みを無視するような形で、民主主義の定義自体を変えてしまったのである。端的に言えば、アメリカ合衆国が、自分たちのやり方を民主主義だと自称し始めたということに他ならない。それが具体的な形で現れたのは、1830年代、いわゆる「ジャクソニアン・デモクラシー(ジャクソン民主政)」の時代のことであった。(『民主主義という錯覚 日本人の誤解を正そう薬師院仁志