悲しみとは古い箪笥(たんす)のようなものだ、ミーラはそう考えていた。捨ててしまいたいのに捨てきれず、結局はそのままになってしまうおんぼろの箪笥。やがてそれは独特のにおいを放つようになり、部屋全体がそのにおいに染まる。時とともに人はにおいに慣れ、ついにはその一部となるのだ。(『六人目の少女』ドナート・カッリージ:清水由貴子訳)