徒然草こそは、自己の内界と外界をふたつながら手中に収めた、日本最初の批評文学であり、表現の背後に、生身の兼好の、孤独も苦悩も、秘やかに織り込まれている。兼好は、決して最初から人生の達人ではなかった。徒然草を執筆することによって、成熟していった人間である。ここに徒然草の独自性があり、全く新しい清新な文学作品となっているのである。(『徒然草』兼好:島内裕子校訂・訳)