水俣病、水俣病ち、世話やくな。こん年になって、医者どんにみせことのなか体が、今々はやりの、聞いたこともなか見苦しか病気になってたまるかい。水俣病ちゅうとは、栄養の足らんもんがかかる病気ちゅうじゃなかか。おるごがつ、海のぶえんの魚ば、朝に晩に食うて栄華しよるもんが、なにが水俣病か――。(『苦海浄土石牟礼道子