人が体験するのは、生の感覚データではなく、そのシミュレーションだ。感覚体験のシミュレーションとは、現実についての仮説だ。このシミュレーションを、人は経験している。物事自体を体験しているのではない。物事を感知するが、その感覚は経験しない。その感覚のシミュレーションを体験するのだ。
 この見解は、非常に意味深長な事柄を述べている。すなわち、人が直接体験するのは錯覚であり、錯覚は解釈されたデータをまるで生データであるかのように示す、というのだ。この錯覚こそが意識の核であり、解釈され、意味のある形で経験される世界だ。
(『ユーザーイリュージョン 意識という幻想トール・ノーレットランダーシュ:柴田裕之訳)

認知科学