細川(※潤次郎)のいうに「ドウしても政府においてただ捨てて置くという理屈はないのだから、政府から君が国家に尽した功労を誉めるようにしなければならぬ」と言うから、私は自分の説を主張して「誉めるの誉められぬのと全体ソリャ何のことだ、人間が当り前の仕事をしているに何も不思議はない、車屋は車を挽(ひ)き豆腐屋は豆腐を拵(こしら)えて書生は書を読むというのは人間当り前の仕事をしているのだ、その仕事をしているのを政府が誉めるというなら、まず隣の豆腐屋から誉めて貰わなければならぬ、ソンナことは一切止(よ)しなさい」と言って断ったことがある。(『新訂 福翁自伝福澤諭吉

氷川清話日本近代史