――なにかこの人には足りない。
 と、子国は子罕(しかん)をみた。もともと心力のとぼしい人かもしれない。それゆえ情や知を湧かす力に欠けている。情というのは知識の温度を変え、知というのは情報の明度を変える。それによって見聞したことから雑色(ざっしき)や雑音が消え、ものごとの本質がみえることがある。そういうおどろきを子罕は与えてくれない。要するに、
 ――たいくつな人だ。
 と、子国は感じた。
(『子産宮城谷昌光